渡辺岳夫が平成元年(1989年)に他界して20年余り。デジタル化とともに音楽業界も大きな変革を経て、 新たな時代へと移行しつつあります。しかし、放送から40年以上の月日を経てなお、渡辺岳夫の楽曲は時代と世代を越えて、多くの人々に聴き継がれています。それは「映像」と「音楽」が一体化しているからに他ありません。劇音楽作曲家として脚本を読みこみ、各シーンを効果的に描きだすために音楽を表現した職人なのです。ハイジがアルプスの高原を元気に走り回る爽快感、財前教授が天才的なメスさばきで治療する緊張感、 飛雄馬が大リーグボールを満身創痍で投げる悲壮感……。どのシーンも音楽が重要な効果をもって視聴者に語りかけてくる、それが多くのファンの方が語られている渡辺岳夫の真骨頂なのです。そして現代劇、時代劇、アニメとメディア表現の広がりと共に映像と音楽の可能性を追求し、週に十本以上の番組を抱えながら20数年間で一万曲を超える作品を残しました。劇音楽職人として自身がメディアに登場することを拒み、作品を音楽で表現する一スタッフとして作曲のみに専念しつづけました。だからこそひとりの作曲家の作品とは思えないほど、あれだけユニークで多様な音楽を生みだしたのです。そんな意味合いから「One Man`s Music」というキーワードが生まれました。